放送設備向けスピーカーのあれこれ


1.放送設備向けスピーカーとは

 放送設備向けスピーカーはPAスピーカーと呼ばれ、ハイインピーダンス伝送(数百オームから数十キロオームのインピーダンス)で使用することを前提に作られています。これらのスピーカーは非常用放送設備としての使用に対応できるよう、消防法による基準を満たした性能を有したものが多く、設置する場所や用途に合わせて様々な特徴を持ったスピーカーがあります。

 

2.放送設備向けスピーカーとオーディオ向けスピーカーの違い

〜ハイインピーダンスとローインピーダンス〜

 放送設備向けスピーカーは構内放送等で各エリア毎に合計数十個のスピーカーを配置し、音声やBGM、自動火災報知設備の警報音などの放送行うことを目的として作られています。建物用の放送設備となると、アンプからスピーカーへの配線長が数10〜100mを超えることがあるため、伝送効率の良いハイインピーダンス方式が使用されます。

 ハイインピーダンス方式では、アンプの出力電圧に70Vや100Vといった高い電圧を用いることで、スピーカー1台あたりが消費する電流を減らすことができるため、細い配線材に多数のスピーカーを接続することが可能です。これらは70Vラインや100Vラインと呼ばれ、電圧が高いほうがより効率よく伝送できます。

 100Vラインの場合、スピーカーのインピーダンスは3.3kΩ(3W)や10kΩ(1W)というものが一般的(W=V^2/R)で、接続するスピーカーのワット数の総和がアンプの出力ワット数を上回らない範囲で接続可能なスピーカーの個数を計算します。
 たとえば、出力20Wのアンプに10kΩ(1W)のスピーカーを並列接続する場合は1(W)×20(個)→20(W)となり、20個のスピーカーを並列に接続することが可能です。このように、多数のスピーカーを接続可能なハイインピーダンス方式ですが、アンプの終段と出力端子間、スピーカーの入力端子とスピーカーユニット間にマッチングトランスを使用することにより、音質の劣化が発生するため、高音質での再生を要求しない音声等の放送に適しています。

 一方、オーディオ向けスピーカーは高音質での音源再生を目的として作られています。したがって、低域から高域まで幅広い帯域の再生能力を持つものが多く、マルチウェイ構成のスピーカーや、高品位なスピーカーユニット、エンクロージャーが使用されており、4〜16Ωといった低い(ロー)インピーダンスを持つものが一般的です。

 ローインピーダンススピーカーは、マッチングトランスを介さずアンプとダイレクトに接続できるため、トランスによる音質への影響が無いほか、数百ワットといった高い出力に対応できます。ただし、スピーカーケーブルがもつ抵抗値が音質の劣化に影響することがあるため、アンプからスピーカーへの配線長は50m程度(ケーブル断面積による)が目安となっており、できる限り太いケーブルを使用することが望まれます。
 また、複数個のスピーカーを並列に接続する場合は個数に注意が必要で、スピーカーの合成インピーダンスがアンプの許容インピーダンスを下回らないようにする必要があります。

※インピーダンス・・・交流回路における抵抗成分

 

3.放送設備向けスピーカーの種類と特徴

【壁掛型スピーカー】

全放連型

汎用型

HIPS樹脂製

 学校の教室などでよく目にする箱型のスピーカーがこれに当たります。木製のキャビネットをもつスピーカーが主流ですが、廉価なモデルには樹脂製のキャビネットが用いられています。壁掛型スピーカーには学校放送設備向けに設計された全放連型スピーカーと呼ばれる規格があり、W450×H300×D240(mm)という統一された外形寸法をもとに、各メーカーからさまざまな全放連型スピーカーが販売されています。上記の画像は代表的なものとなりますが、スピーカーボックスの材質や形状は様々なものがあり、廊下への設置用として両面にスピーカーユニットを備えたモデルも存在します。

 壁掛型スピーカーの取り付け方式はダルマ穴に木ネジを引っ掛けて固定するタイプが主流となっており、メーカーによっては壁への据付と配線がワンタッチで行える施工性の優れたスピーカーコンセントという接続方式を導入しているものもあります。

【天井埋込型スピーカー】

正面

天井取付時の断面図

 天井に埋め込んで設置するタイプのスピーカーです。天井そのものをバッフルとして利用するタイプや、背面にエンクロージャーを持つものなど、求める音質をもとにスピーカーの選定を行います。また、外観も様々なものが用意されており、換気扇のような音孔をもったものや、パンチングネット、ジャージネットを使用しているものなど、設置する部屋のインテリアに合わせてスピーカーネットのデザインを選択できるようになっています。

 天井埋込型スピーカーの取付方式はスプリングキャッチ式という構造のものが多く、スプリングによる引っ張り力を利用してスピーカー本体とスピーカーネットの間に天井パネルを挟み込むようにして固定を行います。

【天井露出型スピーカー】

 天井ボードの無い倉庫、駐車場など、天井埋め込み型スピーカーが施工できない場所への設置に向いているスピーカーです。皿状のキャビネットが用いられています。

【ホーンスピーカー】

正面

側面

 学校の校庭や防災無線などでよく目にするラッパ型のスピーカーのことをホーンスピーカーと呼びます。1つのホーンのみで構成されているものをストレートホーン、短いホーンの中央に円筒が組み込まれているものをレフレックスホーンスピーカーといい、ホーンスピーカーは他の形式のスピーカーと比べ能率が高く(100dB SPL/1W/1m)、数ワット程度の小さな入力でも大きな音圧レベルを確保でき、広い範囲に拡声できるという利点をもっています。また、円筒の奥にスピーカーユニットがあるため、直接の風雨に晒されにくい構造となっており、耐候性に優れています。
 しかしながら、音質の面では中音域が強調されたキンキンとした音が目立つため、音楽の再生には不向きとなっており、音の飛びが良好という性質上、近隣への騒音に対する配慮が必要となります。

【ワイドホーンスピーカー】

角型

丸型

 ホーンスピーカーの一種で、学校の校庭や駅などでよく使用されているスピーカーです。コーンスピーカーの前面にストレートホーンを設けることによりホーンスピーカーがもつ能率と耐候性の高さ、コーンスピーカーがもつ音質の良さという双方の利点を合わせ持ったスピーカーとなっており、広範囲に対して明瞭性の高い放送を行うことができます。メーカーによってワイドホーンスピーカー、クリアホーンスピーカーといった呼称でラインアップされています。

【ラインアレイスピーカー】

ラインアレイ型 コラム型

 ボックススピーカーを縦に複数個連結させたものや、縦長の形状を持った筐体に複数個のスピーカーユニットが一列に並べられているタイプのスピーカーです。垂直方向への音の拡散を抑え、直線状に音を放射する性質を持っているため、体育館や講堂などの残響が多い空間へ設置することで不要な音の広がりを抑制し、明瞭度の高い拡声を行うことができます。後者はメーカーによってコラムスピーカー、ソノラインスピーカーといった呼称でラインアップされています。

【指向性スピーカー】

 水平または垂直方向に対して音の指向角を狭く(広く)もったスピーカーで、住宅街に隣接した屋外への設置等、限られたエリアに向けて放送したい場合などに使用します。設置環境の条件等により騒音対策が必要となった場合、通常のスピーカーから指向性スピーカーへ変更することで環境の改善を図ることができます。この場合、スピーカーの設置台数を増やし、1台毎のスピーカーが出す音量を絞ることで放送エリア外へ対し音漏れの抑制を行います。
 スピーカーの構造はメーカーにより様々で、スピーカー前面のスリットやホーンの形状で指向性をコントロールしているものや、フラットパネルを用いた平面スピーカーなどがあります。

 

4.おわりに 〜スピーカーマニアへの道〜

 私たちの生活のなかには、身近なところで様々なスピーカーが活躍しています。特に、ここで紹介した設備向けスピーカーたちの息は長く、設置される建物が建築された日から解体される日に至るまで、雨の日も風の日も休むことなく働き続けています。
 よほどのスピーカーマニアでない限り、設置されているスピーカーのメーカーや形式を意識することはありませんが、注意深くスピーカーを観察することで、その建物の築年数や時代背景をうかがい知る手がかりにもなります。

 外に出歩く際はぜひとも、その施設のスピーカーに目を向けてみてください。いつも見る風景のなかに何か新しい発見があるかもしれません。